好き、嫌い、小紋によせて。

どうしてだろう、大嫌いだったビール。
ふと思い出してしまう。あのほろ苦さが、あの嫌いだったほろ苦さが、ふわっと口の中をつつむ。となりどうしで話した優しいあなたの姿が蘇る。きみはビールが嫌いだと言ったね。ほら、じつはこんなに甘いんだよ。きみも飲んでみるといい。ささやかなものの好き嫌いなんて、全部そのときのきみの感情の波が大きな力でぜんぶくつがえしてしまうから。だから、きみは寄せては引く波に揺られながら、時にはちょっと戯れに抵抗してみたりして生きる。

ひとは多くを経験に頼って形作られていく。音楽だって、絵だって、わたしは“ひと”にまつわる経験と結び付けられたものでないと深く深く愛することは出来ないだろう。きみのせいで小紋という和柄はわたしの心をつかんだ。

こんな戯ればかり、いつまで続くのか。